episode 002 父の帰還  2009.07.05掲載

帰って来た!

ずっと信じていた。

でも信じる気持ちはそろろそすり切れかけていた。

でも

でもほんとうに帰って来てくれた!

村一番の漁師であった強い父。

いつか必ず父に認められる漁師になる。

それが彼の息子の生きる意味の全てだった。

半年前の嵐の日

漁に出たまま戻らなかった父。

それが今朝

ゆっくりと岸に近づいて来た舟に、

見覚えのある姿が櫓を漕いでいるのが見えた。

母と息子は今、

その父に向かって駆け出していた。

あの日から笑わなくなった母が泣いていた。

その母を支えるために

今までせき止めていた涙が

息子の目からあふれ出していた。

「おとうっ〜〜!!」

息子は砂に足を取られながら

胸の中の息の全てが、父への叫びに変わった。

「おお〜〜い!」

父が二人に手を振る。

その手には、

この辺りでは獲れた事のない魚が

しっかりと持たれていた。

「土産は舟の中にもいっぱいあるからなぁ〜っ!」

 

その日村の浜辺では

ささやかな宴が開かれた。

父が獲って来た魚はとてもおいしかった。

ただほんの少し、

父が乗って来た舟が

木ではない、すべすべで固い、

不思議なもので出来ていたこと、

父の首に

貝のような不思議なものがついていることが

息子には気になった。

けれどそれよりも

明日から再び父との生活が始まることが

彼の心を大きく満たしていた。

 

    Bubbling Bow  episode 002

 



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