けろるの話

1-01 フルーツ探し 2009.11.26

 

 

「おい、迎えに来たぞ」

 親友のぴろしきが、けろるのすみかである木の穴まで登って来ていました。

「めずらしいね、ここまで登って来るなんて」
 既に出かける準備を終えていたけろるが穴から顔を出しました。

「なんだもう起きてたのか、登って来て損したな」

 ぴろしきが舌打ちしました。

 空カエルのけろると違ってぴろしきは水カエルなので、木登りは苦手です。けれど今日二人は、朝から「ヤマグミばあさんの謎のフルーツ」を探しに行く約束をしていたのでした。
 気がはやるぴろしきが、けろるが出て来るのを待てるはずがありません。
 でもわくわくしていたのはけろるも同じです。なぜならけろるはフルーツが大好きな空カエルでしたから。

「降りる時は乗せてってくれよな」
「 うん、でもちょっと待っておくれよ。今日の分の木の実を5個、行く前にカリカさんに渡して来るから」

 そう言ってけろるは、昨日のうちに準備していた木の実5個を穴の奥から出して来て袋に入れ、両手で抱えました。そうしてぱたぱたと背中の羽を羽ばたき、ここより上にあるシマリスのカリカさん家まで飛んで行きました。

「重そうだな」
 のろのろと上がって行くけろるを見ながら、ぴろしきがくすくすと笑いました。

 この木の穴のけろるの家は、元々はシマリスのカリカさんの持ち物で、それをけろるが貸して貰っているのでした。そのかわり毎日木の実を5個、けろるはカリカさんに渡しているのです。その木の実は、空を飛べないと取れない場所にあるため、カリカさんとけろるはとても良い関係なのでした。

 やがて戻って来たけろるは、ぴろしきを抱えて木の下までふわりと飛び降りました。木の下にはぴろしきのリュックが置いてありました。

「いつも思うけど、それ、何が入ってるの?」

「な、なんでもいいじゃないか。それより早く行くぞっ」

 リュックを背負いながら、少し慌ててぴろしきが答えます。
 でもけろるには、いつも出かける時に彼が背負っているリュックの中身については、何となく心当たりがあるのでした。でも親友なので、あえてそれ以上は聞きません。

 

 今からさかのぼること二日前。
 カエル総合村のヤマグミばあさんが、見たこともない大きなフルーツを、通称ど真ん中広場に持って来たのでした。たちまちど真ん中広場には村中のカエルが集まりました。最初はそのフルーツが何なのか、白熱した議論になりましたが、しびれを切らしたけろるがそれにかぶりつき、「おいしいっ!」と言ったものだから、みんな我先にとかぶりつきました。

 気がつくとフルーツは跡形も無くなっていました。

 そうすると今度は、どんな色だったのか、どんな形だったのか、みんなの記憶も微妙に違っていたので、どんなフルーツだったのかで白熱した議論になってしまいました。結局みんな、どんなフルーツだったのかがさっぱり解らず、議論は終了。

 解っているのは、ヤマグミばあさんが毎朝歩く散歩コース沿いにある川から、このフルーツが一つ流れて来たので、ヤマグミばあさんは5人の孫を酷使してこれを手に入れたということだけ。

 その後、何人かが川をさかのぼってフルーツを探しに行きましたが、結局見つけられずに戻って来たのでした。

「でもおれたちは違うぜ。きっと見つけて帰って来れるさ」
 ぴろしきが不敵な笑みを浮かべました。
「そうだね、ぼくも絶対もう一度あのフルーツを味わうんだっ」
 けろるが夢見るような表情を浮かべました。

「きっと他のカエルたちは、奥に進むのが怖くなって引き返して来たのさ。みんな意気地がないからね」
「うん、そう思う。でもぼくたちは彼らとは違うさ。ぼくたちには誰よりも勝る勇気と情熱があるもの」

 けろるとぴろしきは、パンッとハイタッチをしました。

 そうして勇気ある二人は、川沿いを歩きながら、森の奥に入って行きました。

 

                             つづく