episode 004 漂流機械 2009.11.16掲載
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昼間の嵐が嘘のように治まり 海は静かな鏡面となっていた。 どんよりとしていた空は今 雲ひとつない明るい月夜となっていた。 少し時間が遅くなってしまったが 俺はいつもの浜辺へとやって来た。 海が時化たあとに浜辺に来るのはいつもの事だった。目当ては漂着物だ。特に良い流木が流れ着いていれば幸いである。 その流木を使ってオブジェを作るのがささやかな俺の趣味であり仕事であった。それ以外にも見た事も無い何かに、ひょっとすると出会えるのではないかという子供じみた期待も持っていた。
ほとんど風もない月夜。 その明るさ故に 晴れ渡った夜空に輝く星は いつもより少なく見えた。 その分岩場や砂浜には 月明かりにより際立った存在感があった。 これなら漂着物も探しやすい。 そうして俺がとある入り江に差しかかかった時 そこにあるはずのない無い大きな物が 波打ち際に打ち上げられているのが目に入った。 漁船が座礁でもしたのだろうか。 俺は早足で駆け寄ったが、すぐに立ちすくんだ。
なんだこれは? 最初は転覆した漁船の船腹かと思ったが、そうでは無く、のっぺりとした藍色の筒状のものだった。直径は5mくらいであったが、砂に埋まっている部分、海に没している部分がどれくらいのサイズなのかは解らない。 その物体は金属で出来ているようであったが、表面はどろっとした膜で覆われており、かすかにアイドリングのような音が聞こえた。 俺が今まで見た事の無い機械であった。 表面にはつなぎ目らしいものは見受けられなかったが、一部ハッチのようなものが開かれており、 「これは…」 その開かれたハッチから蒼い髪の女性が上半身を投げ出された状態で倒れていた。
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倒れている彼女の蒼い髪の毛は 微風にさえサラサラと揺れていた。 その髪は 海辺に投げ出されたにも関わらず 塩分の影響も受けずに つややかに月明かりに光り 角度によって銀色の光を反射していた。 俺は彼女の口元に耳を近づけ、呼吸を確認した。 どうも気を失っているだけのようだ。 見たところ怪我をしているふうでもない。 ずるずると彼女をこの奇妙な機械から引っ張り出し、パチパチと顔を叩いたりしてみたが、意識は戻らない。 ふと 彼女が乗って来たこの奇妙な機械のハッチの奥に 光の点滅が見えた。 その光は、まるで俺を観察しているようにも見える。 そして俺が中を調べようとハッチに手をかけようとした瞬間、甲高い電子音と共にハッチが閉まった。 続いて響く重低音。 「お、おいっ」 慌てる俺を尻目に その奇妙な機械は滑るように海中に消えて行った。 再び入り江は何も無かったかのように静まり返った。 彼女はまだ目覚めない。 しかし彼女の蒼い髪は 俺がとても奇妙でやっかいな漂着物を拾得してしまった事を暗示していた。
Bubbling Bow episode004
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